よしなしごとダイアリー

日常のあれこれをああでもないこうでもないと考える

星新一 一〇〇一話をつくった人

1001話をつくった人

長大な本で、ノンフィクション作家・最相葉月の力作です。


70年代SFファンだったので、星新一の伝記とあれば読んでおかねばね。社会人になる頃にはもうSFもあまり読まなくなっていたので、1001話の達成もあまり記憶になかったです。


実家の近くの薬局には「シホはりすく」というホーロー看板があって、小学校の行き帰りになんの事だろうと思いつつ見ておりました。右から読んで「薬は星」だったんだわ。明確にして短いこのキャッチフレーズは父君星一氏のものであるそうです。


ショートショートの名手は血筋も素晴らしく、森鴎外の妹が祖母ですのよ。父は星製薬の創業者でたいへんなおぼっちゃんでした。父の急逝後二代目として星製薬を継いだ挙句倒産したというのは当時でも有名でした。その苦労の詳細に付いてはこの本で初めて明らかになりましたね。苦労はしても表に出さないのは星新一らしいとおもいましたね。


晩年は口腔がんを患い、食事も思うように取れずにやせ細ってしまった写真があって、あまりの変わりように切なくなりました。記憶の中ではSFマガジンなどで小松左京筒井康隆を従えていた長身でダンディなイメージだったのでなおさらです。


いまでは教科書にも載っているショートショート、子供たちのみんながその作品を読んだことがある作家です。子供にばかり受けていて、この読者はいつか卒業してしまう、そんな哀歓もしっかりと書かれていました。かくいうわたしもすっかり読まなくなっているクチです。