よしなしごとダイアリー

日常のあれこれをああでもないこうでもないと考える

「迷惑な進化〜病気の遺伝子はどこから来たのか」シャロン・モレアム

迷惑な進化

大層なタイトルですが文章は読みやすくてわかりやすい一般向けの本です。適者生存(survival of the fittest)ならぬ病者生存(survival of the sickest)です。
中世ヨーロッパで広くおこなわれた病気治療法「瀉血」がヘモクロマトーシスという身体に鉄分がたまりすぎる病気に有効だったと言う衝撃の事実。瀉血をバカにしていてスイマセンでした。このヘモクロマトーシスも、ペスト流行時には生き延びるのに有利だったのだそうです。


そのほかいろいろ目から鱗的な知見が書かれていますが、テロメアについてのたとえ話がとてもよくできていたので紹介しておきます。


「老化のプログラミング


 レオナルド・ヘイフリックは現代の老化研究の基礎を築いた人物の一人だ。彼は1960年代に、細胞は決まった回数だけ分裂すると寿命が尽きてしまうことを発見した。(例外もあるのだが、それに付いては後で説明する)。この、細胞分裂の回数制限は『ヘイフリック限界』と呼ばれていて、人間の場合は52回から60回ほどだ。


 ヘイフリック限界は、染色体の末端を保護するキャップにあたる『テロメア』が磨り減っていくことと関係がある。細胞は分裂するたびにDNAの破片を少しずつ失う。DNA情報を確実に複製するためには、失った破片部分の情報を補わなければならない。その情報補完に使われるのがテロメアだ。


 あなたはある情報を50部コピーしなければならないとしよう。で、街角にあるキンコーズ(コピー屋の大きいの・スズキ注)に飛び込んだ。ところが、そのコピーサービス店は、コピー代金をお金ではなくてあなたの原稿で受け取りたいという。すなわち、1回コピーするたびに原稿の最後の1ページを貰うよ、と。さて困った。あなたの原稿は全部で200ページある。1回コピーするたび1ページむしりとられたら、50部目のコピー原稿は150ぺーじしかないことになる。ストーリーの後半四分の一が読めないということだ。そこで、高度に進化した頭のいい生き物は考える。あなたの原稿の最後に空白の50ページを足して、250ページの原稿としてキンコーズに持ち込むのだ。これで、50部のコピーすべてに結末までのストーリーが含まれることになる。51部目のコピーをとらないかぎり、あなたの大切な情報は失われない。テロメアはこの空白の50ページにあたる。細胞分裂のたびに短くなっていくが、そのおかげでDNAの全情報が守られる。しかし、細胞が50〜60回分裂するとテロメアはなくなるため、情報伝達は終了となる。


 細胞分裂に限界を設けるように進化したのは何のためなのだろうか?


 答えを先に言おう。癌だ。」
 

じつに面白くてわかりやすいなあ。もっとも癌はこのテロメアを延長させる「テロメラーゼ」と言う酵素を使ってどんどん増殖をしてしまう。あの初のクローン羊ドリーのテロメアが短かったと知ったときは、神の領域だったのかと思ったものですが、その後の科学の進歩で、クローンはおろか不老不死まで手が届くかもしれませんね。


この書の後半234Pからは水性類人猿説(アクア仮説)が繰り広げられるのですが、これは目からウロコと言うより話半分、まゆにつばって感じでした。